「プレタ」という言葉を耳にしたことはありますか。これはフランス語の「プレタポルテ(既製服)」を略したもので、和装の世界では、あらかじめS・M・Lなどのサイズで仕立て上がっている「既製品」の着物を指します。
一方で、自分の体型に合わせて一から作るものを「お誂え(おあつらえ)」と呼びます。既製品は手頃な価格で便利ですが、一方で「安っぽく見えないか」という不安もつきまといます。この記事では、プレタの着物を賢く選び、品よく着こなすための具体的な方法を詳しくお伝えします。
そもそも「プレタ」と「お誂え」は何が違う?
着物を探していると必ず出会う「プレタ」と「お誂え」。この2つの大きな違いは、洋服でいうところの「吊るしのスーツ」と「オーダースーツ」の関係に似ています。プレタは買ったその日に持ち帰って着られる手軽さがある反面、すべての人にぴったり合うわけではありません。まずは、プレタの着物が持つ特徴と、多くの人が抱く不安の正体を確認してみましょう。
1. 注文してから手元に届くまでの時間と価格
お誂えの場合、まずは反物(巻かれた状態の布)を選び、そこから自分の寸法に合わせて仕立てるため、手元に届くまでには1ヶ月から2ヶ月ほどの時間がかかります。価格も、生地代に加えて数万円の仕立て代がかかるため、どうしても高額になりがちです。
それに対してプレタは、工場でまとめて仕立てることでコストを抑えており、1万円台から手に入るものも多くあります。「今日着たい」という願いを叶えてくれるスピード感と、お財布に優しい価格設定が、プレタの着物の最大のメリットです。
2. 素材の主流は「ポリエステル」であること
プレタの着物の多くは、家庭で洗えるポリエステル素材で作られています。正絹(シルク)のお誂え品と比べると、どうしても生地特有の光沢感や、肌に触れた時の質感が異なります。
この素材の違いが、時として「安っぽさ」という印象に繋がってしまうことがあります。しかし最近では、絹の風合いを再現した高品質なポリエステルも登場しており、素材選び次第で見え方は大きく変わります。
体型に合わないサイズによる「借り物感」を解消する
プレタの着物を着ていて「なんだかしっくりこない」と感じる時、その原因の多くはサイズにあります。洋服と同じように、着物にも自分の体に合った「寸法」が存在します。既製品は平均的な体型に合わせて作られているため、どこかに必ず「余り」や「足りなさ」が出てくるものです。このズレをどう調整するかが、着こなしの分かれ道になります。
1. 裄丈(ゆきたけ)が合っているか鏡の前で確認する
裄丈とは、首の付け根から肩を通って手首のくるぶしまでの長さのことです。プレタの着物で最も目立ちやすいのが、この裄丈の過不足です。
腕を45度に下げた時、手首のくるぶしがちょうど隠れるくらいが理想の長さです。手首がニョキっと出すぎていると、サイズが合っていないことが一目で分かってしまうため、購入前に必ずこの数値をチェックしてください。
2. 身丈が長い時に調整する腰紐の高さのコツ
プレタの着物は、背の高い人でも着られるように「身丈(着物の長さ)」を長めに設定していることが一般的です。これをそのまま着ると、お腹周りの折り返し(おはしょり)が長くなりすぎて、野暮ったく見えてしまいます。
おはしょりが長すぎる時は、腰紐を結ぶ位置をいつもより少し高くしてみてください。腰紐を高く締めて布をたくし上げることで、おはしょりの幅を人差し指一本分くらいに整えることができ、全体がスッキリと見えます。
3. S・M・Lサイズの違いと自分に合う寸法の見つけ方
多くのブランドでは以下の表のようなサイズ展開をしていますが、メーカーによって数センチの差があります。自分の身長だけでなく、腕の長さ(裄丈)を基準に選ぶのが失敗しないコツです。
| サイズ表記 | 身長の目安 | 裄丈の標準 | ヒップの目安 |
| Sサイズ | 150〜155cm | 64cm前後 | 〜90cm |
| Mサイズ | 155〜160cm | 66cm前後 | 90〜95cm |
| Lサイズ | 160〜165cm | 68cm前後 | 95〜100cm |
もし身長がMサイズでも、腕が長いならLサイズを選んで身丈を調整する方が、結果的に綺麗に見えることが多いです。
生地のテカリを抑えて落ち着いた雰囲気に馴染ませる
安価なプレタ着物に共通する悩みが、ポリエステル特有のギラギラとした光沢です。この光の反射が、着物を「衣装」のように見せてしまい、日常の風景から浮いてしまう原因になります。素材選びの段階で、できるだけ光を柔らかく受け止める生地を探すことが、高見えさせるための重要な戦略です。
1. 東レ・シルックなど絹に近い質感の素材を選んでみる
「東レ・シルック」は、ポリエステルでありながら絹の構造を科学的に再現した高級素材です。糸の断面を三角形にすることで、絹のような上品な光沢としなやかさを実現しています。
一般的なポリエステルに比べると価格は上がりますが、その見た目はプロでも見間違えるほどです。「洗える便利さ」と「安っぽく見えない質感」を両立させたいなら、この素材を選んでおけば間違いありません。
2. マットな質感のちりめん風生地に注目する
表面に細かな凹凸がある「ちりめん」風の生地は、光を乱反射させるため、特有のテカリが目立ちにくいという特徴があります。ツルツルとした平織りの生地よりも、重厚感が出て落ち着いた印象を与えます。
また、生地に適度な重みがあるため、体に沿ってストンと落ち、美しいシルエットを作ってくれます。生地の表面に「表情」があるものを選ぶだけで、既製品特有の平坦な印象を払拭できます。
3. 太陽の下でも自然に見える色と柄の選び方
原色に近い鮮やかな色や、輪郭がはっきりしすぎた大きな柄は、ポリエステル特有の「印刷感」を強調してしまいます。一方、少しくすんだ色味や、線が細い古典柄は、素材の質感を上手にごまかしてくれます。
具体的には、ベージュやグレー、紺色などの落ち着いたトーンを選んでみてください。落ち着いた色は影が綺麗に出るため、ポリエステルであっても奥行きのある上品な佇まいを演出できます。
コーディネートに「本物の質感」を一つだけ混ぜてみる
全身をプレタのアイテムで揃えると、どうしても全体の印象が軽くなってしまいます。そこでお勧めしたいのが、コーディネートのどこか一点だけに「正絹(絹100%)」や「手仕事の品」を混ぜる方法です。視線が集中する場所に本物を置くことで、着物自体の格を底上げして見せるテクニックです。
1. 正絹の名古屋帯を合わせて全体の印象を引き締める
着物はプレタのポリエステルでも、帯だけは「正絹の名古屋帯」を締めてみてください。帯は着物の中心に位置し、面積も広いため、ここが本物であるだけで全体の高級感が劇的に増します。
絹の帯は滑りにくいため、初心者でも結びやすく、着崩れしにくいという実用的なメリットもあります。「着物はプレタ、帯は正絹」という組み合わせは、多くの着物ファンが実践している賢い節約術でもあります。
2. 帯締めや帯揚げの素材にこだわってみる
帯周りを彩る「帯締め」や「帯揚げ」を、絹100%のものに変えるだけでも効果は絶大です。組紐の繊細な表情や、縮緬の柔らかな質感は、小さな面積ながらも装いの密度を濃くしてくれます。
ポリエステル製の小物は結び目が緩みやすいことがありますが、絹の小物はギュッと締まって解けません。機能面でも優れた本物の小物を添えることは、装いを「丁寧」に見せるための近道です。
3. 職人の手仕事が光る帯留めをアクセントにする
さらに個性を出したいなら、作家が作った帯留めや、アンティークの小物を足してみましょう。大量生産品ではない一点ものが加わることで、着物全体の「既製品感」を打ち消すことができます。
例えば、陶器製や木彫りなど、素材に温かみがあるものを選んでみます。小さな一点にこだわりを凝縮させることで、見る人に「自分のスタイルを持っている人」という印象を与えることができます。
| アイテム | 素材選びのコツ | 期待できる効果 |
| 着物 | テカリの少ないポリエステル | 汚れを気にせず動ける解放感 |
| 帯 | 正絹(絹100%) | 全体の質感を格上げし、着姿を端正にする |
| 帯締め | 絹100%(手組み) | 結び目が緩まず、高級感を添える |
| 帯留め | 作家物・一点もの | 既製品感をなくし、個性を演出する |
襟元を美しく整えて「きちんと感」を演出する
プレタの着物を安っぽく見せないために、最も気を配るべき場所は「顔周り」です。襟元(えりもと)がふにゃふにゃと浮いていたり、合わせが甘かったりすると、どんなに良い生地でもだらしない印象を与えます。襟元をピシッと整えることで、清潔感のある「着慣れた人」という雰囲気が生まれます。
1. 襟芯を硬めのものに変えてシャープなラインを出す
長襦袢(着物の下に着る肌着)の襟に通す「襟芯(えりしん)」を、少し厚手で硬めのプラスチック製に変えてみてください。これにより、襟のカーブが左右対称に美しく保たれ、首筋がスッキリと見えます。
襟元がしっかり自立していると、顔立ちまでシャープに引き締まって見えます。襟のラインが直線的に整っていることは、仕立ての良さを感じさせる重要な視覚的要素です。
2. 長襦袢の襟をしっかりと抜いて首回りをスッキリさせる
襟を「抜く」とは、後ろの襟を引き下げて、うなじを見せる着方のことです。プレタの着物は生地が滑りやすいため、動いているうちに襟が詰まってきやすく、それが野暮ったさに繋がります。
着付ける際に、拳一つ分くらいのゆとりを持たせて襟を抜き、腰紐でしっかり固定しましょう。うなじが綺麗に見える着こなしは、大人の女性らしい余裕を感じさせ、洗える着物を一段上の装いへと引き上げます。
3. 刺繍半襟を合わせて顔周りに華やかさを添える
長襦袢の襟に縫い付ける「半襟(はんえり)」に、刺繍が施されたものを選んでみるのも一案です。刺繍の糸が持つ光沢や立体感は、顔周りに華やかな明るさをもたらします。
素材はポリエステルの刺繍襟でも、デザインが凝ったものであれば安っぽさは全く感じさせません。視線を襟元に集めることで、着物全体の素材感にまで意識を向けさせないという工夫も大切です。
帯の結び方を工夫して「既製品感」をなくす
プレタの着物には、同じくポリエステルの「半幅帯(はんはばおび)」を合わせることも多いでしょう。これは一般的な帯よりも幅が狭く、結びやすいのが特徴ですが、形がシンプルすぎて子供っぽくなってしまうことも。大人らしく着こなすなら、結び方に一工夫加えてみましょう。
1. 半幅帯でも大人っぽく見える「お太鼓風」の結び方
半幅帯であっても、まるでお太鼓を結んでいるように見える「カルタ結び」や「銀座結び風」のアレンジがあります。これらは背中に適度なボリュームが出て、落ち着いた大人の女性の雰囲気が生まれます。
リボン結びのような可愛すぎる形を避けるだけで、カジュアルさが抑えられます。平面的な結び方から脱却することで、プレタの着こなしに深みが生まれます。
2. お太鼓の山を綺麗に作って後ろ姿を格上げする
名古屋帯を締める場合は、お太鼓の「山」のラインが地面と平行になるように整えることを意識しましょう。山が歪んでいたり、垂れ(たれ)の部分が長すぎたりすると、後ろ姿に疲れが出てしまいます。
帯枕の位置を高く、背中に密着させるのがポイントです。後ろ姿の端正さは、着る人の品性を最も雄弁に語る場所であり、ここを整えることが最大の「高見え」術になります。
3. 帯の垂れの長さを体型に合わせて微調整する
お太鼓の下の部分、いわゆる「垂れ」の長さは、人差し指の付け根くらいにするのが標準的です。ここが長すぎると足が短く見え、短すぎるとお尻が大きく見えてしまいます。
自分の体型に合わせて、数センチの調整を行う鏡越しの確認を怠らないでください。細かなバランスへの配慮こそが、既製品を「自分だけの一着」に変える魔法です。
プレタの着物を長く綺麗に着続けるための工夫
プレタの着物の最大のメリットは、何といっても「自宅で洗える」という点にあります。しかし、洗濯機に無造作に放り込んでしまっては、生地の劣化を早め、逆に安っぽさを助長するシワを作ることになります。正しくメンテナンスを行い、常に清潔な状態を保つことが大切です。
1. 洗濯機で丸洗いする時のネットの入れ方
着物を洗う際は、必ず「着物専用の洗濯ネット」を使用してください。着物を袖だたみにし、ネットの中で動かないようにぴったりサイズを合わせるのがコツです。
そのままの状態で「おしゃれ着コース」を選択し、脱水は1分以内にとどめます。ネットの中で生地が泳がないようにすることで、ポリエステル特有のスレや毛羽立ちを防ぐことができます。
2. 静電気による裾のまとわりつきを防ぐ方法
ポリエステル素材の敵は、乾燥した季節に起きる「静電気」です。足に生地が張り付いてしまうと、歩くたびにシルエットが崩れ、非常に動きづらくなってしまいます。
着る前に裾よけ(下着)に静電気防止スプレーをかけたり、柔軟剤を使って洗ったりすることで、この問題は解決できます。裾がハラリと美しく揺れる状態を保つことが、洗える着物を優雅に見せるための必須条件です。
3. アイロンがけでポリエステル特有のシワを伸ばす
「ノーアイロンで大丈夫」と言われるプレタ着物ですが、座りシワなどは意外と残るものです。完全に乾いた後、低温のアイロンで優しくシワを伸ばしてあげましょう。
特に、襟や袖口、裾のラインがピシッとしていると、清潔感が際立ちます。スチームを当てすぎると逆に生地が波打つことがあるため、ドライアイロンで手早く仕上げるのがコツです。
お出かけが楽しくなる人気のプレタブランド
最近では、従来の「安かろう悪かろう」というイメージを覆す、デザイン性と品質を兼ね備えたブランドが次々と誕生しています。これらのブランドを知ることで、プレタ選びはもっと自由に、楽しくなります。
1. くるりで見つける都会的でシンプルなデザイン
「くるり」は、都会の街並みにしっくりと馴染む、洗練されたプレタ着物を提案しています。無地感のデニム着物や、絶妙なニュアンスカラーの洗える着物は、多くのファンから支持されています。
洋服と同じような感覚でコーディネートを楽しめるのが魅力です。シンプルでありながら素材感にこだわった一枚は、長く愛用できる定番品になります。
2. キモノモダンの日常に溶け込む優しい素材感
福岡発の「キモノモダン」は、日常の何気ないシーンで着たくなるような、優しく可愛らしいデザインが豊富です。木綿やデニム、レース素材など、触り心地の良いプレタ着物を手頃な価格で提供しています。
「ワンピースを着るように、着物を楽しんでほしい」という想いが込められたアイテムは、どれも着心地が抜群です。自分の暮らしの延長線上にある着物を探しているなら、真っ先にチェックしたいブランドです。
3. ドゥーブルメゾンで楽しむ少し特別な日の装い
スタイリストの大森伃佑子さんが手がける「ドゥーブルメゾン」は、ノスタルジックな世界観が特徴です。レースやギンガムチェックなど、自由な発想で作られたプレタ着物は、一目置かれる存在感があります。
伝統的なルールにとらわれすぎず、自分の「好き」を表現したい方におすすめです。プレタであっても、物語を感じさせる一着をまとうことで、お出かけの日はより特別なものになります。
街歩きやカフェで気負わずに和装を楽しむために
プレタの着物は、高級な絹の着物ではためらってしまうような、雨の日の外出や食事のシーンでこそ真価を発揮します。より軽やかに着こなすための、現代的なアレンジを最後にご提案します。
1. 草履ではなくショートブーツやパンプスを合わせてみる
プレタの着物(特にデニムや木綿)なら、足元にブーツやパンプスを合わせるスタイルもよく似合います。歩きやすさが格段に上がり、街歩きがもっと身近になります。
このスタイルなら、多少裾を短めに着付けても違和感がありません。足元に普段使いの靴を持ってくることで、着物が持つ「特別すぎるイメージ」を脱ぎ捨て、親しみやすい装いへと変わります。
2. 着物専用バッグではなくお気に入りのカゴバッグを持つ
いわゆる「和装バッグ」にこだわらず、普段洋服の時に使っているレザーバッグやカゴバッグを合わせてみてください。
自分の持ち物を合わせることで、全体のコーディネートに「自分らしさ」が宿ります。洋服のセンスを和装にも持ち込むことが、プレタを安っぽく見せないための高度なテクニックです。
3. 雨の日でも「洗えるから大丈夫」と心にゆとりを持つ
雨予報の日、正絹を着ている人は裾の汚れを気にして足早になりますが、プレタを着ているあなたは、雨の日の景色を楽しみながらゆっくりと歩くことができます。
「汚れても家で洗えばいい」という心のゆとりは、動作のしなやかさに繋がります。この「余裕」こそが、どんな高級な着物にも勝る、最高に魅力的な着こなしのコツなのかもしれません。
まとめ:自分らしくプレタの着物を楽しむために
プレタの着物を「恥ずかしい」と感じる必要は全くありません。最後に、安っぽく見せないためのポイントを振り返ってみましょう。
- 「プレタ」とは既製品のこと。まずはサイズ(特に裄丈)を自分に合わせる
- テカリの少ない「東レ・シルック」や「ちりめん風」の生地を選ぶ
- 帯や小物の一点だけに「正絹」を混ぜて、全体の質感を底上げする
- 「洗える」というメリットを活かして、雨の日でも堂々と振る舞う
プレタの着物は、あなたの日常を彩るための便利な道具です。まずは今日、お気に入りのバッグを鏡の前で着物に合わせてみることからはじめてみませんか。

